インバウンドコールセンターは、今日の「エクスペリエンス・エコノミー(経験経済)」で、その重要性が増しています。顧客は、提供されるエクスペリエンス(体験)に基づき、企業の評価を決めます。コールセンターが成功を収めるには、現状を把握しつつ、エクスペリエンスを向上させるための将来の方向性を考えなければなりません。本記事では、インバウンドコールセンターを成功へ導くためのヒントをお伝えします。
進化するインバウンドコールセンターの役割
コールセンターは顧客の問題を効率よく、素早く解決することに重点を置いています。しかし、現在のコールセンターでは、それだけでは不十分です。
素早さと効率は今でも重要ですが、インバウンドコールセンターは優れたカスタマーエクスペリエンス(CX)を提供する要求が新たに課せられ、これは顧客との関係を強化する必要があることを意味します。
顧客がカスタマーサービスへ問い合わせるとき、多くの場合は不満や怒りを抱えています。これはインバウンドコールセンターが能動的に対応し、問題を解決して、顧客との関係を維持するのみならず、強化するチャンスです。
インバウンドコールセンターのリーダーは、カスタマーサービスを通じて、顧客が抱える問題を、効果的かつ満足のいく方法で、解決する責任を果たす必要があります。短期的もしくは、長期的な計画を含め、必要な課題に注力することでそれを実現します。
インバウンド業務を成功へ導く5つのポイント
長期的な成功には、入念な計画が必要です。以下では、コールセンターが長期的な成功を実現するための、5つのプランニング活動を紹介します。
1.戦略を立てる
3~5年後のコールセンターの姿とは?どのチャネルをサポートするのか?どのテクノロジーが必要なのか?在宅勤務のエージェントは増えるのだろうか?こうした問いは、長期的な戦略で考える必要があります。
将来のビジョンを構築する際、インバウンドコールセンターのリーダーは、人事、ITなどの主要部門のマネージャーとともに、計画会議を開催する必要があります。話し合いを円滑に進めるために、以下のようなデータを元に議論するのが有効です。
・2025年までにアメリカ労働者人口の10%がZ世代に*
1996年以降に生まれたZ世代は、給与よりもワークライフバランスを重視し、雇用主に対して倫理的な行動と社会的な進歩を求める傾向があります。Z世代の特徴は、コールセンターのテクノロジー、人事計画、経営の質、企業文化などに影響を与えます。
*データ参照:Deloitte
・2019年半期だけで3,813件のデータ流出、41億件の記録が流出*
インバウンドコールセンターは、個人情報や顧客の財政状況など、大量の顧客データを保持しています。会議では、デジタル記録、録音内容、コンプライアンス準拠を継続的に維持するための対策についても話し合うと良いでしょう。
*データ参照:Risk Based Security
・企業の70%がコンタクトセンターのクラウド移行を検討もしくは実施済み*
クラウド型コンタクトセンターは、拡張性に優れており、実質的なメリットをもたらします。さらに、クラウド型プラットフォームは、オンプレミスのソリューションよりもセキュリティが強化されています。
*データ参照:NICE
・消費者の90%はオムニチャネルサポートを提供する企業から商品を購入したいと考えている*
消費者の多くはシームレスなオムニチャネルエクスペリエンスを期待している一方で、企業はその期待に満足に応えられていないと感じています。メールやソーシャルメディアなどのデジタルチャネルを追加していない場合は、顧客がどのチャネルを求めているのかを調査し、導入時期を決めると良いでしょう。
*データ参照:NICE
・73%のコンタクトセンターのリーダーが、勤務の継続を計画
新型コロナウイルス感染拡大により、コンタクトセンターは在宅ワークへ素早く移行するよう迫られています。これは長期的な事業計画でも考慮すべき点であり、企業の差別化にもつながります。在宅ワークを長期的に採用する場合、採用、業務、テクノロジーに、どのような影響があるかを考える必要があります。
*データ参照:NICE
2.テクノロジー活用プランの策定
戦略会議を通じて、必要なテクノロジーの変更または追加が見つかるはずです。これらはすべて、複数年にわたるテクノロジープランに記録しておく必要があります。
次のようなポイントを考えてみてください。
- 使っていないツールやソフトはないか
- 業務効率化のために、新たに取り組めることは何か
- CXを改善するために必要なツールは何か
- コストを節約するために必要なことは何か
- 現在の技術インフラで、自然災害時や将来の事業拡大に対応できるか
こうした質問について考え、組織を横断してマネージャー達と話し合うことで、現在のテクノロジーが戦略目標や事業目標を達成できるか、判定できます。
3.社内理解を促進
策定した事業戦略やテクノロジー活用プランを実行するには、社内理解も欠かせません。スムーズな社内理解を促進するために、以下のことを試してみてください。
・定期的な業務レポート
定期的に、コールセンターの業務成果をまとめてください。チャネルごとの対応数、エージェントの採用状況、KPIなどのデータを含めます。他の部門の重要なステークホルダーへ送付し、高評価を得たやりとりの録音内容も添付してください。
・関係性を築く
コールセンターは、企業の他の部門とは別の施設に存在する可能性が高いはずです。この場合、マーケティング、製品開発、ITなど、重要なステークホルダーと定期的に会議する努力を重ねる必要があります。重要な関係を強化できるため、仕事の能率がはかどります。
・視察を促す
誰もが互いを非難している時は、情報を公開するのが難しいはずです。しかし、それこそが、やるべきことなのです。企業側の人々をコールセンターへ招き、優秀なエージェントの業務を現場で視察してもらってください。コールセンターチームへの敬意を新たにしてもらえるはずです。
4.積極的なコスト管理
コールセンターの予算は非常に低いことで知られています。予測と雇用を最適化したため、コストを抑えるアイデアはすでに使い切っているかもしれません。しかし、次のアイデアはどうでしょう。
・AIチャットボットの導入
AIチャットボットやIVRは、顧客による自己解決を促すセルフサービスを実現する強力なツールです。セルフサービスの応対を成功させることは、エージェントが扱う必要のない応対を意味します。つまり、エージェントの能力をほかのチャネルでの応対へ振り分けることができます。一部のエージェントは、ボットのトレーニングを担当して、よりスマートにすることで、ボットで対処可能な問い合わせを増やすこともできるかもしれません。
・平均処理時間の短縮
IVRは顧客の本人確認を自動で行うことで、エージェントによる処理時間を節約できます。またエージェントが、必要なデータや情報にすぐにアクセスできるデスクトップを使えば、顧客を待たせずに素早く回答を提供し、CXの改善にもつながります。
・インバウンドコール数を減らす
一次解決率が低いと、顧客は数回にわたり問い合わせをする必要があり、コール数の増加につながります。一次解決率を改善するための、研修やテクノロジー活用について考える必要があります。また、SMSやメールなどのチャネルを用いた、アウトバウンドコールも検討してください。
・人件費以外のコストを削減
コールセンター運営には、人件費だけでなく、施設やツール利用料なども発生します。クラウド型コールセンターへ移行すれば、使った分だけ支払う従量課金制のため、オンプレミス型よりもコストを抑えることができます。また、エージェントの在宅ワーク化を進めることで、コストを削減することができます。
5.KPIの見直しと修正
コールセンターは進化しているため、KPIもそれに合わせて変える必要があります。従来のKPI(放棄呼率、平均応答速度、平均処理時間など)に加え、CX重視のKPI追加も検討してみましょう。
・ネットプロモータースコア
ネットプロモータースコア(NPS)は、「(企業)を友人や家族へすすめる可能性はどの程度あるか?」という、シンプルな質問に基づいて、顧客からの推薦度を測定します。
・顧客満足度
顧客満足度は、サービスが顧客の期待に応えているかを教えてくれます。満足度調査はシンプルにし、すぐに回答できるようにして、毎回の応対完了時など、定期的に実施する必要があります。自動調査ツールは顧客満足度、NPSなどの測定を簡素化します。
・セルフサービスの成功
セルフサービスがうまくいかないと、顧客がすぐに問題解決をできないため、顧客が不満を訴えてCXが低下します。セルフサービスの成功を測定することで、プロセスがうまくいっているか、または介入が必要なのか、判明します。
・一次解決率、保留時間、転送率
これらは従来からある指標にも関わらず、十分に注意が払われていないため、まとめました。この3つの指標は、優れたカスタマーエクスペリエンス提供の妨げになる要因がないかを示してくれます。
インバウンドコールセンターでは、レポーティング機能にも注意を払う必要があります。理想としては、レポーティングや分析対象には、通話だけでなく、ソーシャルメディアチャネルやメール、セルフサービスなど、あらゆるチャネルを含める必要があります。
インバウンドコールセンターで何が変更されても、次の原則は生き続けます。測定できないものは管理することもできません。